特許成立の要件(1) 〜「発明」であること〜 |
特許法上の「発明」とは・・・
特許出願の対象はもちろん「発明」です。しかし、私たちが日常使用する「発明」という言葉には、単なるアイデアや方法から具体的な物など、いろいろなものが含まれます。 まず、特許庁が特許の対象として認める特許法上の「発明」とは何なのかを、はっきりさせる必要があります。
特許法第2条に、「発明とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう。」とあります。つまり、発明とは (1)自然法則を利用した(2)技術的思想の(3)創作、のうち(4)高度のもの、であることの4つの要件を満たすものでなくてはなりません。 以下、少し噛み砕いて説明したいと思います。
(1)自然法則を利用していること
「自然法則」で代表的なのはニュートンの万有引力の法則や エネルギー保存の法則などがあげられます。一方、ピタゴラスの定理などの数学、論理学上の法則、 スポーツなどの技能、ゲームなどの人為的な取り決め(ナックルボールの投げ方、新しい課税方法等)は自然法則の仲間には入りませんので、 この種のものは今までになかった革新的なものでも、特許の対象とはなりません。
さらに、発明は自然法則そのものではなく、自然法則を「利用」したものでなければなりません。 つまり、自然界において今まで誰も気が付かなかったようなすごい法則を発見しても、その法則自体は特許の対象とはなりません。 逆に、当たり前の自然法則であっても、それを利用したものであれば、とりあえず特許の対象になるということです。
もう少し具体的な例を挙げると、水が高いところから低いところに流れるという自然法則を利用して、 従来の発電量の何十倍もの発電量を生み出す方法や装置は、特許の対象となり得ます。
(2)技術的思想であること
「技術」とは、一定の課題を達成するための具体的手段であって、反復して実施できるもの でなければなりません。理論的に可能であっても実際にはできないこと、例えば、20mを超える高さの津波から日本を守るという課題を達成するために、 日本全体を囲む防波堤などは、実施不可能であるため、特許の対象にはなりません。
一方、成功する確率が低くても反復して実施できるものならば特許の対象になります。例えば、 1896年に特許された御木本幸吉氏の真珠の養殖方法は特許出願時の成功率が1〜2パーセントであったそうです。
「思想」とは体系的な考えを言います。したがって「技術的思想」とは「技術」という具体的手段を提供する、まとまった、 しかも、完結する考えでなければなりません。このことから、単なる願望や着想であって、実現のための具体的方法が不明なものや、第三者が発明の明細書を読んでもどうやって実施したらよいかわからないものは特許されません。
(3)創作であること
「創作」とは新規に作り出したものであり、自明(あたりまえ)でないものです。先ほど(1)で述べた 自然法則が発明とは言えない理由がここにもあります。万有引力の法則は新規に作り出したものではなく、ニュートンが発見する前から世の中に存在していたものだからです。
(4)高度のものであること
最後に、発明は「高度」のものであるとなっていますが、 これは、発明と実用新案との程度の差を表すために設けた言葉であって、 決して発明が天才や学者だけが成し遂げることができる難しいものであると言っているわけではありません。
特許出願の際に提出する明細書には、「発明の技術分野」という項目に続いて、 その分野での「背景技術」を記載し、 さらに続けて「発明が解決しようとする課題」を記載することになっています。ここで、特許を取ろうとする発明が、 従来の「背景技術」によっては解決できなかった課題を解決できるものであり、 それが、すぐに思いつく自明なことでない限り、ちょっとしたことでも発明として特許の対象となり得るのです。
そんなわけで、私たちの周りには、けっこう発明の種が転がっており、誰でも発明者となれる可能性があるといえます。 お客様の小さな(いや、大きな)アイデアをお客様の価値ある知的財産に変え、お客様の利益の増大と技術の累積的進歩に 貢献することが、当事務所の経営目標なのです。
by 橋本商標特許事務所