登録できない商標
 法上の「商標」とは認められないもの

 知覚(視覚・聴覚)に訴えるものでなければ商標とは認められない

商標とは、人の知覚によって認識することができるもののうち文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、 音その他政令で定めるもの・・・をいう。(商標法第2条第1項)

 

2015年3月までは、登録できる商標のタイプは目に見える物に限られていましたが、2015年4月から、 コマーシャルの音楽のような「音商標」、動物が動いたりするような 「動き商標」、文字や図形が見る角度によって変化して見える「ホログラム商標」 などの商標も商標の仲間に入りました。

         > 弊所ホームページ「商品・商標・役務とは」をご参照下さい。
 使用する意思がない商標

 関連が薄い多数の指定商品・役務を願書に記載すると拒絶理由通知が来る

日本の特許庁は「登録主義」という方針をとっているため、 現在実際に業務に使用していない商標であっても、 近い将来仕事を始める可能性さえあれば登録が認められます。

 

しかし、審査官が見て明らかに使用する意思がないと考えられる商標については登録が認められません。 たとえば、銀行や保険会社は商品の製造・販売をすることは法的に認められていませんので 商標を商品について出願しても、使用する意思があると認められません。

 

また、一出願において互いに関連が薄い多数の指定商品・指定役務を記載した場合にも、 使用に疑義があるとして登録が認められない場合があります。 そのような拒絶理由を受けた場合には、事業計画書などを提出して使用意思を示す必要があります。

 識別力がない商標(1) 商品やサービスの普通名称をそのまま表しただけの商標

 指定商品「チョコレート」に商標「CHOCOLATE」

指定役務「オートバイの小売又は卸売りの業務において行われる顧客対する便益の提供」 に商標「バイク」を出願した場合もこれに該当します。

これらの商標は、商品やサービスの名前そのものであり、 商標に自他商品・役務を識別する力がないとして登録が認められません。

 

特定の個人がそのような商標について独占的な権利を持ったら、 ほかの多くのお菓子屋さんやバイク屋さんが、店先に「チョコ」や「バイク」と書いて、商品を売ることができなく なってしまうからです。

 

ただし、字形に特徴があったり、図形との結合商標は、 全体として識別力があれば登録可能です。

 

また、商標が商品と関係ないときは該当しません。つまり、チョコレートに商標「チョコ」はダメですが、 自動車に「チョコ」なら、この種の商標には該当しません。

 識別力がない商標(2) 業者間で使用されている慣用商標

 指定商品「清酒」に商標「正宗」、弁当に「幕の内」

同業者間で慣用的に使用された結果、先に述べた普通名称と同じように識別力を失った商標です。

指定役務「宿泊施設の提供」に 商標「観光ホテル」も、これに該当します。

 

散髪屋さんの店頭に立っている赤・白・青の渦がグルグル回る 三色ねじり棒(「サインポール」というそうです)も、散髪屋さんが一般的に使用する商標として、 特定の散髪屋さんだけに登録を認めないことにしています。

 識別力がない商標(3) 商品の材料、品質、原産地などをそのまま表した商標

 被服に「ウール」、コピー機に「クイックコピー」、牡蠣に「ヒロシマ」

「ウール」は商品「被服」の材質を、「クイックコピー」は 商品「コピー機」の品質を、「ヒロシマ」は商品「牡蠣」の原産地を それぞれ、そのまま表したに過ぎない商標であるため、識別力がないとして登録が認められません。

これも、商品との関係で、指定商品「おもちゃ」「ウール」でしたら、「おもちゃ」と「ウール」の間には関連性がないので登録の可能性が あります。

 

また、「大阪」「ニューヨーク」「パリ」などの有名な地名は、 商品の生産地ではない場合でもこの種の商標に該当するとされます。

 

ただし、字形に特徴があったり、図形との結合商標は、 全体として識別力があれば登録可能です。

 識別力がない商標(4) ありふれた氏や名称をそのまま表した商標

 「スズキ」、「田中」、「WATANABE」、「佐藤商店」

「ありふれた氏」というのは、電話帳に多数見られる氏が該当するとされています。

 

「スズキイチロー」は氏だけでなく名が含まれているので、 これには該当しません。

 

ここで注意が必要なのは、「名称」には商号が含まれるということです。 したがって、「佐藤商店」「橋本屋」「江口株式会社」「Matsui Co.」なども該当します。

 

ただし、字形に特徴があったり、図形との結合商標は、 全体として識別力があれば登録可能です。

 
 識別力がない商標(5) 極めて簡単で、ありふれた文字や図形だけからなる商標

 「○」、「▽」、「■」、「AB」、「DD」

上記のような極めて簡単な図形、アルファベット2文字だけの商標などがこれに該当します。

 

ただし、ローマ字2字であっても重なり合った場合(モノグラムといいます)、たとえば、 読売ジャイアンツ「Y」と「G」とが重なり合ったマークなどには登録が認められる場合があります。

 他人の権利や著名団体の権威を害する商標  公序良俗に反する商標

 東京都のマーク(左図)、「タモリ」、「YMCA」、「JETRO」、「NHK」

他人の肖像、氏名などを含む商標や、「タモリ」などの著名人の芸名などは、 該当する人物の人権を保護するために登録が認められません。ただし、本人の承諾を得れば登録可能です。

 

また、都道府県のマーク、YMCA、JETRO、NHK などの著名な公益団体のものと同一・類似の商標は、その団体の権威を尊重するとして、 当該団体以外の者には登録が認められません。

 

公序良俗に反する商標とは、猥褻、残酷な商標のほかにも、 「征露丸」のように、特定の民族や国民を侮辱する商標や差別的な表現を含む商標などが含まれます (現在は「正露丸」と表記を変更して商標登録されています)。

 他人の商品・役務と混同を生じる可能性がある商標(1) 未登録周知商標の場合

 登録されていない他人の周知な商標と同じまたは似ている商標

たとえば、△△県とその周辺で「○○牧場」という名の牧場がその地方の人たちに知られている場合、 その「○○牧場」という商標が登録されていなくても、「○○」という商標を、牛乳や牛肉を指定商品 として出願したものは、これに該当する可能性が高くなります。

 

全国的に有名でなくても、一地方で知られていれば、これに該当します。

 他人の商品・役務と混同を生じる可能性がある商標(2) 先願先登録商標の場合

 先に出願され、登録された他人の商標と同一・類似の商標

自分の出願より先に出願されていて、かつ、先に登録されている 他人の商標(先願先登録商標といいます)と同じ、または似ている商標であって、 指定商品・役務がその登録商標のものと同じ、または似ている場合には登録 を受けることができません。

 

この規定は日本の商標制度の根幹(登録主義、先願主義)に関わる規定であり、 また、通知される拒絶理由の中で最も多いものとなっています。商標が似ているかどうかの判断(「類否判断」といいます)は、 商標に関する問題の中で最も難しい問題の一つであり、しばしば出願人・弁理士と審査官との判断が割れるところだからです。

 他人の商品・役務と混同を生じる可能性がある商標(3) 著名商標の場合

 著名な商標と同一・類似の商標

他人の著名な商標と同じ、または似ている商標は、指定商品・役務が異なる場合でも登録 を受けることができません。

「他人の著名の商標」とは右に示すような誰でも知っている 会社のハウスマークのような商標を言います。

 

商品・役務が同じ、または似ている場合は、 上述の「未登録周知商標」または「先願先登録商標」を引用されて 拒絶されますが、ここでいう「登録できない商標」は、商品・役務が著名商標のもの とは異なることが特徴となります。

 

たとえば、Sony という商標を「自転車」を指定商品として出願した場合には、 指定商品が Sony のものとは異なるので、上述の「他人の商品・役務と混同を生じる可能性がある商標(1)または(2)」 には該当しませんが、Sony はソニー(株)の商標としてあまりにも著名であるため、この自転車はあのソニー(株) と何らかの関係があるグループ会社が作っている商品ではないかという、いわゆる広義の混同が 生じるおそれがあるとして、登録されません。

 
*特許電子図書館の 「日本国周知・著名商標検索」で、日本国における周知商標の例を検索することができます。
 一般の人が商品・役務の品質・質を誤認しやすい商標

 指定商品「牡蠣」に商標「ヒロシマ」、指定商品「パン」にブドウの絵の商標

指定商品「牡蠣」に商標「ヒロシマ」は、指定商品が産地限定がない「牡蠣」であるため、 登録された場合には、広島産以外の牡蠣にも商標「ヒロシマ」を使用することができてしまいます。 このような使用がなされた場合、需要者の間に産地誤認が生じる可能性があるため、 指定商品がただの「牡蠣」では登録が認められません。

 

この種の拒絶理由通知を受けた場合には、 指定商品を単なる「牡蠣」ではなく、「広島産の牡蠣」とすれば、 広島以外で採れた牡蠣には登録商標を使用できませんので、ここでの拒絶理由は解消できます。

 

しかし、他方で、「ヒロシマ」という文字だけの商標は、 上述の「商品の原産地をそのまま表しただけの商標」(識別力のない記述商標)に該当する可能性があります。

 

指定商品が「パン」で、商標がブドウの絵を含む商標である場合も、 この商標がブドウが入っていないパンに使用されると品質誤認の可能性がありますので、 この種の商標に該当します。

 

この場合も、指定商品を「ブドウ入りのパン」とすれば、 ここでいう商標には該当しなくなります。

 不正の目的で使用する商標

 海外でよく知られている商標

海外の有名ブランドと同じまたは似ている商標は、すでに日本で使用されて、 ある程度周知になっている場合、または登録されている場合には、 前述の「未登録周知商標」「先願先登録商標」を引例に拒絶されますが、 まだ日本でそれほど知られていない場合には、ここでいう「不正の目的で使用する商標」として 拒絶理由が示されることがあります。

 

「不正の目的」とは、 いわゆる図利・加害目的をいい、日本に進出予定の企業の商標を先回りしてとっておいて、 その企業が実際に日本で営業を始めようとするときに商標権を高く売りつけたり、 その企業の日本の代理店になることを強要する、といった目的が推認される場合をいいます。

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