「新規性」の要件を満たす新しい発明であっても、
容易にできる発明には独占権は付与されません。とはいっても、この「容易」であるか否かの判断は
一筋縄ではいきません。特許審査において通知される拒絶理由通知の8割から9割が、この「進歩性欠如」なのです。
従来技術にちょっと毛が生えた程度の発明に簡単に独占権を与えられないという審査官と、
お客様のご依頼を受けて何とか特許査定を取ろうとする弁理士との、永遠かつ壮絶な戦いがここにあります。
ここでは、特許庁が「特許審査基準」によって、進歩性判断の手法はこういうふうにやっていますと
公表しているものを、普通の人が分かる言葉に直して以下に示します。
進歩性判断の手法
まず、審査の対象となっている発明が、この技術(発明)をもとに容易にできたものであるという
ことを説明するのに適した、もとの公知技術(発明)を選びます。これを「引用発明」といいます。
次に、審査対象の発明と@で選んだ引用発明の、一致する点と相違する点を
はっきりさせます。
一致点ばかりで相違点がなければ、両者は同じ技術(発明)ということになり、進歩性の前に
上述の「新規性」がないことになりますので、相違点があることが進歩性判断の前提となります。
次に、この2つの技術の相違点の溝を埋めるための「論理づけ」を試みます。どういうことかというと、
引用発明Aと審査対象の発明Bを比較して、AとBを結び付ける糸をさがします。例えば、AからB
に至ったのは、Aよりも適した材料を選択しただけ(最適材料の選択)であるとか、
BはAの単なる設計変更に過ぎないとか、また、BはAと他の公知技術との
単なる組み合わせに過ぎないとか、両者を結び付ける「論理づけ」を試みます。
そのほか、Aや他の公知技術の中に、Bを思いつくようなきっかけ(動機)となるようなものがなかったか、
などを調べます。
このようにして、「論理づけ」すなわち両者を結びつけること、ができたときは「進歩性なし」
との判断となり、どうやっても「論理づけ」ができない場合には「進歩性あり」ということで、
めでたく進歩性の要件をクリアしたことになります。
また、審査している発明が引用発明に比べて、その効果が予測できないほど大きいとかいう場合には、
その程度によって判断は「進歩性あり」の方にプラスに働きます。
特許庁の審査官は「進歩性欠如」の拒絶理由のなかで、必ず、上記 の
引用発明をあげ、 のうちのいずれかの論理づけが
できることを書いてきます。
これに対して、私たち弁理士の方は、審査官の引用発明選定の過程で引用発明のとらえ方に
間違いがあったとか、論理づけが不当になされたとか、また、引用発明と比べて効果が比類なく
大きいとか、意見書の中で反論します。しかし、反論が無理なときは一歩引いて、補正書によって、
発明の内容を狭めたりして、引用発明と結びつく部分を削って、「論理づけ」ができないようにします。
蛇足になりますが、よく特許査定率が高いことを売りにする特許事務所が見られますが、
そういう宣伝は素直に受け取るべきではありません。
従来技術に対して絶対的進歩性を有する発明など、
そうあるものではありません。審査官は、進歩性が微妙な多くの発明に対して、
まずは引用発明からの論理づけができる点を示して、出願人(弁理士)
が意見書などでどう反応してくるかを見る場合が多いといえます。
そこで、出願した発明を補正して、
権利行使をしてもほかの人にあまり影響を及ぼさない範囲に減縮すれば、比較的簡単に
権利化することはできます。
しかし、誰が実施しても権利侵害とならないような権利をとっても、
何らお客様の利益とはなりません。お客様のためにギリギリのところで審査官と勝負して、
できるだけ大きな範囲で権利を取ることが弁理士のアサインメントだと思うのです。
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